アニメ制作を、科学する。

──「アニメ」と「研究」という組み合わせにとても驚きました。アニメ業界との共同研究事例は多くあるのですか。

小山裕己さん(以下、小山):極めて珍しいですね。アニメ会社に技術顧問がいること⾃体がほとんどないので、アニメ会社の技術顧問という⽴場を⾊々と模索しています。

加藤淳さん(以下、加藤):アニメ業界と研究者との関わりは、⽇本と海外、特にアメリカのピクサーなどのスタジオとでは⼤きく変わってきますね。ピクサーは元々、1970年代後半にCG研究で著名だった⼤学の研究組織のメンバーが、Lucasfilmに移籍し、独⽴してできました。 研究機関から派⽣したということもあり、ピクサーは、当初から研究者と⼀緒に成⻑してきました。CG技術に関する国際的な学術組織であるSIGGRAPHで、クリエイターが現場の課題をCG研究者と共有し発展してきたのです。 ⼀⽅、⽇本でもテレビ会社のプロデューサーがJCGLという研究所を⽴ち上げ東京⼯業⼤学と研究開発を進めるなどしましたが、国際的研究者コミュニティを巻き込みきれたとは⾔いづらいと思います。東映動画(現在の東映アニメーション)もメーカーの中央研究所と連携しながらワークフローのデジタル化を進めますが、⽇本のCG研究のコミュニティとは課題感にすれ違いがあったように思います。

小山:クリエイターと研究者が互いに歩み寄ることがいまのアニメ業界にとって重要だと考えています。“The art challenges the technology, and the technology inspires the art.” とピクサーの元代表が⾔ったように、クリエイターと研究者が課題を共有して研究開発を⾏うことで、新たなアニメーション表現が⽣まれるのではないかと考えています。

──どういった研究をされているのですか。

加藤:私がアニメ制作会社アーチの研究開発部門Arch Researchで進めているのはWebベースの絵コンテ制作ツールの研究開発です。絵コンテとは、アニメ制作の前段階において制作される、アニメ全体の流れを決める設計図のようなメディアです。アニメ制作の現場ではデジタルお絵かきソフトを絵コンテ⽤に転⽤するような事例が多く⾒られます。しかし絵コンテ制作は単純なスケッチとは異なり、全体を俯瞰することが必要であるため、時間軸の設定や前後のコマとの関係の確認が必要です。そこで絵コンテ制作のためのツール「Griffith」を開発しました。(図1)「Griffith」では多数のコマを同時に⾒たり、絵コンテをコマ送りにするプリビズ機能で流れを確認したりすることができます。

小山:私はアニメ制作会社グラフィニカでCGのレンダリングに関する研究開発を⾏っています。3DCGによる映像制作ではレンダリングという⼯程がありますが、従来のレンダリングを施した画像は「CGっぽさ」が強く現れてしまいます。そのためCGで作成された映像はどれも似たタッチになってしまいます。そこでレンダリングによる出⼒に⼿描き特有のムラや揺らぎを描写する⼿法を開発しました。(図2)このような従来と異なる技術が、新しいアニメーションの創出につながると期待しています。

図1 「Griffith」絵コンテ編集⽤画⾯
図2 ⼿描き感を加えたレンダリング

──アニメ業界と協働する中で印象に残っていることはありますか。

加藤:⽇本のアニメ業界では技術がクリエイターの⼿の中に秘められています。それが強みである⼀⽅、研究者にとっては壁にもなります。クリエイターと研究者が協働するためには、まずその技術をうまく共有していくことが必要だと感じます。

小山:クリエイターと研究者の距離の遠さを強く感じます。お互いがお互いのことをよく分かっていない中、そこをうまく繋げていくにはどうすればいいかを常に考えています。

──最後にアニメに興味ある東⼤⽣にメッセージをお願いします。

加藤:アニメは⼀つの世界共通⾔語になりつつあります。どの業界でもアニメーションが⼀つの⼿段として輝くことがあって、業界とアニメの接点はどこにでも⽣まれるでしょう。その時に、業界とアニメの新たな接点となってくれたら、と思います。⾃分の業界とアニメ業界との関わりを作る、そのような形で好きなことを仕事にするといいと思います。

小山:アニメ業界は数少ない成⻑している⽇本の輸出産業です。どんなビジネスでも接点を持つことがあるでしょう。また将来、研究者や情報系エンジニアがアニメ業界内に増えることでアニメ業界の更なる発展につながると思います。今後そのような機会がもっと増えることを期待しています。